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全日本選手権2回戦

投稿日時:2015/11/03 18:22


2015.11.03 鈴木貴男は綿貫に敗れるも「来年ももちろん出たい」と闘志は衰えず [全日本テニス選手権]


 「第90回記念大会 橋本総業 全日本テニス選手権」(予選10月29~31日、本戦10月31日~11月8日/賞金総額2846万円/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園テニスコート)の本戦4日目は、男子シングルス2回戦と女子シングルス3回戦、男女ダブルスの2回戦が行われた。

 晴天の休日。テニス観戦には最適な陽気の午後ということもあってか、1番コートは満席。立ち見も数列の人垣ができていた。その中心にいたのは39歳になった鈴木貴男(イカイ)だ。

 1回戦は快勝。大会直前になって「スピードとパワーで勝負できるように」と改良を始めたサービスには手応えもあったようで、鈴木の表情は明るかった。また、サービスの好調さはプレー全体のリズムのよさにもつながっていて、アプローチからボレーへの動きに切れもあった。まるで、強かった頃の鈴木が戻ってきているように見えたほどだ。

 2回戦の相手は第9シードの綿貫裕介(橋本総業)。今年6月の昭和の森フューチャーズ大会で国際大会での初優勝を挙げ、8月には韓国のフューチャーズでも優勝するなど、充実期に入った25歳。もともと万能型の選手で、すべてのショットに隙のない選手だが、その綿貫を鈴木は「ボールの質が上がり、コントロールも収まってきている。スピードがある中で、バランスも崩れずよくなってきた。成長していると思う」と評価していた。

綿貫裕介

 いずれも好調な選手同士の対戦で、綿貫が鈴木のサーブ&ボレーにどう対抗していくのかが見所だった。

 第1セット第5ゲームで綿貫が先にブレーク。試合はまだまだここからで、逆に鈴木がどう逆襲していくのかに注目が集まっていた。

 しかし、綿貫が5-2で迎えた第8ゲームで、鈴木がフォアハンドのリターンをミス。その直後、鈴木は両手を膝に置いてその場で長くうなだれた。このときは大事なポイントでのリターンのミスに落ち込んだという、パフォーマンスなのかと思われたが、直後のポイントから鈴木はまともにボールを打てなくなっていた。リターンした瞬間に、右肘の内側を傷めたのだ。

 「ものすごく痛い」と鈴木。セット間のチェンジオーバーでトレーナーを呼んで治療を受け、試合を続行した。

 試合後、鈴木はまだ詳しい診断は受けていないとしながらも、「日常生活レベルで痛みがある。しばらくテニスはできないと思う」と症状の深刻さを話している。

 「僕は全日本の決勝を棄権したこともある唯一の選手」と鈴木は自嘲気味に話し(2002年大会)、「前ならここで止めていたと思う」と言いながら、「今までがそうだったから、途中で止めるのは逆に嫌だった」と話している。

 かつての鈴木は全日本のあとに続くチャレンジャーや、その先の全豪オープンなどを見据えて全日本では無理をせず、できる範囲のプレーで勝てるところまで勝つというスタンスで戦っていた時期がある。大事な大会だとは常に口にしていたが、すべてを出しきるほどには比重を置かずに戦っていた。

 全日本は世界ランキングには関係のない、あくまでも国内大会。プロ選手の目標はグランドスラムで、ATPポイントのつく大会だという彼の考え方であり、やり方でもある。

 だが、もしかすると鈴木は、そういう自分に内心では忸怩(じくじ)たるものを感じていたのかもしれず、それがこの試合を棄権できなかった理由かもしれない。

 「今日は休日で、たくさん人も来ていた。もったいないなと思って。何とか最後までやりました」と棄権しなかった理由について鈴木は言う。

 「前はこのままなら無理だと思ったら棄権したほうがいいという感じだった。でも今日はたくさんのファンが来てくれて、綿貫が(自分を)嫌がっているのもわかったので、自分にやれることをやって、どうやったら何とかなるのかを探りたいという気持ちもあった」と続けた。

 鈴木ほど有明で戦うのが好きな選手もいない。ファンを巻き込んで、その声援をバックにしたときの鈴木の強さは掛け値なしで世界のトップクラスだった時代がある。

 2006年のジャパン・オープンで、全盛期の真っ只中だったロジャー・フェデラー(スイス)を相手に、ファイナルセットのタイブレークを戦ったのはまだ記憶に新しい。そして彼は今も有明でファンといっしょに戦いたいという強い気持ちを持ち続けている。近年の彼が全日本を目標に年間の計画を立てているのもそのためだろう。

 「来年ももちろん出たい」と鈴木は言い、「本戦に入れなかったら、予選を戦えばいいかな」と続けている。それは、ここにきて彼が見つけたというサービスの強化によるテニスの再構築を完成させて、真剣勝負の場で試したいという、テニス選手としての純粋な意味での向上心からのものだろう。彼はそれを有明でファンに見せたい、見てほしいと思っている。

 鈴木にこの気持ちがある限り、そして「今年の鈴木はどうかな?」と期待するファンがいる限り、鈴木は有明にまた戻ってくるだろう。長年、ファンと築いてきた絆。1番コートに鈴なりになった観客たちの熱気と、試合を最後まで捨てなかった鈴木に送られた大きな拍手の音が、印象的な大会4日目だった。